櫻井 麻樹さん(プラッツインターン 作成記事)
俳優、パフォーマーとしてご自身も活躍しながら、市民活動団体「千夜二夜」の代表として様々なコミュニケーションワークショップを展開されている櫻井さん。お話を伺うと全ての経験を自分の力に変え進み続けるアーティストとしての姿が見えてきました。
「“アーティスト“としての視点をもって向き合う」
櫻井 麻樹さん(市民活動団体「千夜二夜」代表)
実体験というスタートライン
現在の活動の原点には、櫻井さん自身の体験がありました。
表現の世界で生きていくのは簡単なことではありません。例えば芝居の中で相手に言われたセリフによって本当に傷ついてしまったり、僕自身が人前に立つことがきついと感じてしまったりして、精神的にも肉体的にも壊してしまったことがありました。
それがきっかけとなって自分の心もケアしながらパフォーマンスできる方法がないかと探し求め、ドラマセラピーと出会いました。ドラマセラピーについて学び、演技とは自分の中でイメージを膨らませる営みで、だからこそ実体験と同じ効果を持つのだということに気がつきました。
演劇の手法を取り入れてワークショップを行うことで「子どもから大人まで主体的に物事に取り組み、日々を楽しく生きる力を自分自身で育んでいく」ことを目指し、俳優ではない人達でも表現に触れることができる新しい機会を増やしていく。ただ演劇作品を作って見てもらうだけではなく、自分がアーティストとして活動していく中で、地域との関わりを持ちながら、こういった活動をいかに暮らしの中に浸透させていけるかを考えるようになり、もっと暮らしと芸術を繋いでいく仕事がしたいと思うようになりました。
また今は海外の方とも言語だけではなく、身体表現を用いたアプローチでコミュニケーションを取っていけないかと考えています。
「生きてきた根源が演劇に現れる」
「千夜二夜」ではどのような想いで活動を行っていらっしゃるのでしょうか。
自分の身近な場所である府中で何かできないかと考え、「千夜二夜」という団体を立ち上げてワークショップや創作活動を行ってきました。ワークショップで府中に関わる人々に自分たちが住んでいる町・住んでいた町のエピソードを語ってもらい、そこから創作活動を経て作品をつくりました。何か大きなことをやるのではなく、自分たちが生きる中で感じてきた想いを作品にまとめたんです。すごく大変だったけど、やりがいがありました。
また、子どもたちや大人の方々がワークショップで積み上げた「つみき」を使って、プロのパフォーマーがパフォーマンスをするという企画も行いました。脚本はなく、パフォーマーたちが意見を出し合って作品を創っていく、ディバイジングという手法でパフォーマンスにしていきました。子どもたちがただ作品を見るだけではなく、自分で積み上げたつみきが中心となって様々なパフォーマンスが生み出されていくことで、それぞれの参加者の視点から作品と関わることができます。
このように「人々が育ってきた、生きてきた経験から作品を組み立てる」ということを団体の活動のコンセプトとして活動を続けています。
僕は俳優、パフォーマーとして海外の公演にも度々参加してきたのですが、文化的な違いに衝撃を受けました。世界には、生きていくこと自体に必死な国もあります。そんな国の演劇からはその国特有の文化や歴史を感じ取ることができます。そういう生きる中で培われてきた国の根源ってとても素晴らしいし、心が動かされます。その直接的な感動体験が日本に戻ってきてからも僕の力になっているなと感じています。ニュースをただ鵜吞みにするのか、自分の目で確かめて行動するというのは大きな差があると思っていて。自分の中で信じられる確かなことを少しずつ増やしていこうと僕自身も意識しています。
泥臭く、素直に伝え続ける
俳優、パフォーマーとしても団体の代表としても熱い想いを持ってチャレンジを続けていらっしゃる櫻井さん。何かに挑戦する際に大切にされていることを伺いました。
何か新しい事に挑戦するってしんどいことだと思います。僕も挑戦の根源には恐怖があります。誰よりも怖がりだし、自信がないし。でも終わってから振り返ると、やらなくてよかったことはないと思えます。やらない方が楽かもしれないですが何も変わらない。失敗はないし、すべて成功の過程の中って思うことが大切なのかもしれません。馬鹿にされようが、諦めずに泥臭くやるしかない。
自分の考えを相手に伝えるという場面でも、人前に立つことが怖い時もあります。そういう時は心が閉じてしまうし、自信がないと上手く伝わらなくなってしまう。でも、それは避けては通れない道なんですよ。僕はそういう時、どうすれば自分に正直な身体を作れるか?、身体がこわばらない状態に持って行くためにどう工夫していくか?を考えたりします。例えば自分のまだやったことのない事だったり、興味のあることだったり、何か直感的に、今これが必要かもと思えることを試してみます。もしかしたら打開する方法になるかもしれないし。
相手に自分の想いが伝わるまで、諦めずに泥臭く、足掻いて、素直に伝え続けることが大切なんだと僕は思っています。
未来を見つめて
最後に櫻井さんの今後の目標をお聞きしました。
僕自身、「なかなか生きていくって思っていたより大変だな」と感じています。自分で主体的に生きることを楽しめる方法を探していかなくてはならない時代になってきているんですよね。
ワークショップを受ける子どもたちや、大人の方にも自分を見つめなおすきっかけになってもらえたらいいなと思っています。自分で何かを考えて、何かに気づく人になってもらいたいなと。
自分の心を閉ざしてしまいたくなることもあるし、心を開いていると傷つくことも多いけど、何かを共有する、得ていくには人と繋がっていかないといけないと思いますし、自分から開いていく工夫が必要かなと思います。そんな生きるための力を育むためのサポートしていきたいと思っています。
さまざまな場所でワークショップを行っている方々から学んできましたが、教わったものをそのまま教えるだけでは想いを伝えることができません。教わったものはあくまで形、その器であって、そこに自分自身が信念が必要だと思ってます。
もしかしたら僕のやり方を見て「違う」っていう人もいるかもしれませんが、もしそれを自分が違うと感じる時があればそれは修正すればいいですし、まずは自分が信じる道を行こうと思っています。
そのためにも子どもたちの前ではちゃんと自分がアーティストとして生きていくという視点を持ちながら向き合っていきたい。俳優、パフォーマーとしてパフォーマンス業を続けるのも、自分なりのアーティストとしての視点を持つためです。ワークショップの構成を作るうえでも「子どもじゃわかりづらい」など「自分や他者が持つ子どもとはこういうものだ」という思い込みによる判断基準だけではなく、なるべく柔軟に、時に頑固に「僕は今はこういう視点が重要だと思うからこうやりたい」と言えるようになりたいですね。
最後に
インタビューにご協力いただきました櫻井さん、改めてありがとうございました。
お話を伺いながら、櫻井さんはご自身の体験1つ1つを大切に紡ぎながら今を作ってきた方だと感じました。「アーティスト」とは俳優やダンサーなどといった肩書きのことではなく、1人の人間として自分の中の感性や信じるものを大切にできる人のことを指すのではないでしょうか。
目まぐるしく変化する現代社会において、自分自身の体験を振り返り考える機会が減ってきてしまっているように感じます。私も自分の実体験を大切にすることで自分の信念、軸を見つけ、目の前のことにまっすぐ取り組んでいきたいと思いました。
今まで「あなた」が積み重ねてきた体験は「あなた」の人生にどう繋がっていますか。この機会にぜひみなさんも考えてみてはいかがでしょうか。
(2025年1月31日 取材・文 インターン 和賀菜々香)