迫田 智之さん(プラッツインターン 作成記事)
実母の介護体験から、「介護虐待の予防」に取り組む迫田さん。現在は介護のリアルを伝える為、ボードゲームを通した啓発活動に力を入れています。起業家支援を行うSBラボの会員としてプラッツに訪れる迫田さんはいつもエネルギーに満ち溢れていて、話しているこちら側もポジティブな気持ちになります。今回はそんな迫田さんの人柄や魅力に迫ってみました。
「自分の挑戦が誰かの勇気になる」
迫田 智之さん(「Heart Joint」代表)
経歴
現在私は「介護生活を体感するボードゲームの製作」という「新たなものを生み出す活動」に夢中なのですがその原点は、前職の保険会社のプログラムでビジネスコンテストに参加したことにあります。
コンテストではその場で出会った人とチームを組む為、難しい部分もありましたが、優勝することができました。その時のメンバーと一緒に「Heart Joint」という市民活動団体を結成し、現在も活動しています。
「Heart Joint」は不登校児の支援を目的として活動を始め、コンテスト優勝後も「経済産業省のプログラム(*)」や「みたかビジネスプランコンテスト」などで高い評価を頂きました。当時の私は、まだ何にも実現できていなし、成し遂げてもいませんでしたが、「いける!」という根拠のない自身に溢れてこのプラッツにも話をしにいったことを思い出します。いま思えばとても調子にのっていましたね(笑)。
その後、つなぎすと5期性としての参加、SBラボへの登録、プラッツさんを通しての多くの出会いと支援を受けて今の介護虐待予防の活動にシフトしました。
(*)経済産業省/JETRO主催 次世代イノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator 2019」選抜後、最終戦まで参加
介護虐待の予防に取り組もうと思ったきっかけ
母親の介護が始まった時、自分の取り組んできた活動の背景もあり、「俺ならいけるでしょう」「なんとかなるでしょう」とどこからそんな自信が湧くのか、とても楽観的な甘い考えをもっていました。前述にもありましたが、大体いつもすぐ調子にのってしまうんです(笑)。しかし本格的な在宅介護が始まると、自分の常識が全く通用せず、一時家族が崩壊しかけました。
幸い、私の家は家族みんなで取り組むことができたためなんとか乗り越えることが出来ました。でも私一人の力ではなく、兄妹で力を合わせたからできたことです。ニュースを見ても、介護施設で職員が入所者に暴力をふるうケースや、介護に苦しんだ家族が無理心中するケースなど心を病む出来事が、毎月のように流れてきます。介護を取り巻く家族の環境は何とかならないことと常に隣り合わせの状況にあるように思います。
ニュースで見る介護虐待を他人事だとは思えませんでした。母親に直接手を出したことはありませんでしたが口で強く言ってしまったことはあります。その時、頭の中に浮かんでいるイメージはとても攻撃的で「いなくなってほしい」という状態です。
言葉の攻撃だとしても被介護者にとっては大きなストレスになります。自身が危なくなった経験から、他の人も容易に同じ状況に陥るのではと思ったため、今の活動を始めました。
今の活動について
今力を入れているのは「架空の家族で介護を体験するボードゲーム」です。これから家族の介護を迎える世代をターゲットに、介護を正しく認識してもらうことを目指しています。
介護を正しく認識するとは、介護の各種施設が持つ特徴や被介護者がステージごとに持つ悩みや感情を事前に知ることです。
これは不登校児家庭の支援を行っていた頃から「Heart Joint」が大切にしていることなのですが、正解を教えるのではなく、事前に自分達の課題を意識してもらうことでいざ問題に直面した時に自分たちで考えて選択できるようになってもらいます。これはどれが正解かではなく、自分たちがどうしたいのかを考えることが大切だと思っているからです。
介護でも、始めはほとんどの家族が親には幸せな最後を送ってほしいと考えていると思います。でもいざ介護が始まると、介護を行う自分たちの精神的負担や肉体の疲労を優先し、いつの間にか親の気持ちをないがしろにしてしまいがちです。
介護が終わってから「もっと親孝行をしておけばよかった」「大切にすればよかった」って後悔はしたくないですよね。被介護者の尊厳を守るためにも、後悔を残さないためにも、事前に介護のリアルを知り、家族で話し合える状態を作ることが必要ではないでしょうか。
やりたい事をやることでハッピーな人生になる
会社員時代からなぜそんなにエネルギッシュなのかとよく聞かれていました。私はその答えは「自分がやりたいことをやっているから」だと思います。
今の若い子達に多く感じるのですが、親や世間の顔色を伺い自分の本音に蓋をしてはいないでしょうか。親や世間の考えが正解とは限らないですし、周りが求める答えを察知して行動するばかりでは、絶対ストレス症状が出てくると思います。
そうはいっても自分の本音に正直になるのは難しいかもしれません。繰り返し挑戦することで獲得できるものかもしれません。でも長い人生を生きてきた中で言えるのは失敗しても大丈夫だという事です。これまで「穴があったら入りたい」「いなくなってしまいたい」レベルの失敗をしてきました。でも失敗したって死ぬわけじゃありません。結果として夢中になれる事に出会えて今とても幸せなので、他の方にもどんどん挑戦してほしいと思っています。
府中をもっと活性化させたい
今の活動にかける熱意と同じくらい強く、魅力あふれる府中であってほしいという思いがあります。プラッツ、そして府中を盛り上げるために私に出来ることは、今の活動に前向きにひたむきに取り組み、他の人に勇気を与える事です。
前の職場で感じていたのは、職場の中にイライラした人がいるとその空気が伝播してきますが。そんな状況の中に、場を和ませ、雰囲気を変えてくれるハッピーな人がいるだけで、緊迫が解け明るい空間になることがあります。私が目指すのはそういった存在をより多く生み出していくことです。
自分の取り組みにはとても可能性を感じています。世界中が高齢化社会に向かっているため、この介護問題は日本だけの問題じゃなくなります。実際にフィリピンの方にこのボードゲームを見てもらった時に、彼らは既に人生ゲームやモノポリーで日本のすごろくを知っていて、凄くいい反応が返ってきました。気が早いと思う方もいるかもしれませんが、英語版のプレゼン資料も作り始めています。
私は介護の分野で頑張っていきますが、他の分野でもエネルギーを持った人が増え、府中がもっと魅力あふれる街になればいいなと思っています。
(2024年6月10日 取材・文:インターン 鶴留大地)