坂本 尚人さん(プラッツインターン作成記事)
インドに14年間住まいを構えていた、府中インドの会代表の坂本さん。なぜ我々はインドに魅了されるのか。巷で言われている「インドは人生観が変わる」は本当なのか。
「インドって他者の象徴なんじゃないかな」、「感情が揺れ動くタイミングって、すごくチャンスだと思うんだよね」。冒険と探求を続ける、そんな坂本さんに話を聞いてみました。
感情が揺れ動くそのとき、自分を知る
坂本 尚人さん(「府中インドの会」代表)
左・和田 陸人(プラッツインターン)、右・坂本 尚人さん
坂本:いきなりなんだけど、このインタビューをお互いに新しい自分を発見する時間にしてみない?探求し合う感じで。
和田:いきなりですね!(笑)。今日は聞き役に徹しようと思っていたんですが……。楽しそうなのでぜひ探求し合いましょう!
でもまず初めに、坂本さんが代表を務めている府中インドの会はどんな団体なのか、またどういった経緯で団体を立ち上げたのかを教えていただけますか。
坂本:じゃあ、まずは経緯の方から。
僕は、コロナ前から十数年インドで暮らしていて、現地で日本人が集まる宿の経営をしたり、ヨガ団体やNGO団体など、いろんな事業をやっている団体に属していたんだけど、それがコロナ禍ですべてがゼロに。そのタイミングで府中にある実家に帰ることにしたんだ。実は、インドもロックダウンになってしまって、日本からインドに戻ることもできなくなったんだよね。
和田:たしかに、当時は県を跨いだ移動もできない状態でしたよね。数日だけの海外出張のつもりが、コロナで帰れなくなってしまって結局1年そこで暮らした人もいたり。
坂本:帰国できただけラッキーだったのかもね。
ちょうどその時に、母が起業してね。その手伝いをしてたの。それで、府中のFacebookグループで出会った人に「インドに住んでたんです~」って、自己紹介のついでにちょろっと紹介したら、意外と「おっ」という感じで受けが良くてね(笑)。
いま、活動の拠点にもなっている普賢寺のご住職ともそうやって出会ったんだ。
和田:旅行ではなくて住んでいたとなると、「おっ」ってなりますね。
坂本:そこからね、府中には東京外語大もあるし、インド好きってもしかしたら多いんじゃないか?って思うようになって。
僕たち日本人もさ、仏教とか、カレー、ヨガ、チャイみたいにインドに関連したことに興味がある人ってある程度はいると思うのよ。で、せっかく府中にはいろんな人がいるし、「集まってなんかやる?」ってなって開催されたのが「チャイトーク」っていうイベントなんだ。
<チャイトークとは>
府中インドの会が不定期に開催する集い。チャイ、そしてインドのスナックを片手にインドなどの「他者」についてあーだこーだと話しながら交流するのが狙い。(府中インドの会Facebookより)
和田:どうして「チャイトーク」のようなイベントを開こうと?
坂本:僕ね、単にエキゾチックで、異国情緒あふれるインド!!っていう紹介の仕方にはあんまり興味がなくてね。自分たちと全く違う「遠い世界の海外」っていう伝え方には惹かれなくて。
そうじゃなくて、違いがある中でも自分たちとどういう繋がりがあるんだろうとか、そういう違いを認識する自分ってなんなんだろうかとか、そういう観点で海外を取り上げたいと考えていて。新しい自分の発見の入口になる、自己探求の入口になるようなね。
和田:自分の考え方と異なる人に出会うと、「そういう考え方もあるんだ」という発見以外に、「自分はこういう考え方をするタイプなんだな」というような再認識する機会になりますよね。
坂本:そうそう!
それでね、僕が思うに、インドって他者の象徴なんじゃないかって思っていて。
インドを「日本とは何もかもが違うんだ!」というふうに、全く別のものとして見る人も多いよね。だからその視点だけではなくて、そう見ているからこそ、インドという他者を通して「自分って何なんだろう...」という自分を見つめなおすようなきっかけがあるんじゃないかと。だから他者の象徴っていう言い方をしてるんだよね。
和田:そうした他者の象徴であるインドを通して自己探求をするのが「チャイトーク」なんですね。
坂本:そういうこと!
じゃあ、ここで和田くんに質問していい?
和田:お! 探求しあう時間ですね?(笑)
坂本:そう(笑)。
和田くんは1か月間、カナダでホームステイしたことがあるんだよね? そのときに何か違いはあった?
和田:「日本は察する文化だけど、外国は言わなきゃ何も伝わらないよ!」というアドバイスをもらっていたんですけど、「カナダにも普通に察する文化があるぞ?」ということに気づきましたね。
坂本:たとえばどんなときにそう感じたの?
和田:日本みたいに沈黙と間で察するようなことは少ないんですけど、その分、向こうはジェスチャーや表情が盛んだなと感じましたね。同じ「察し」でも、それらを駆使して相手に「察してもらう」ようにしているなと。
坂本:おー。相手に察してもらうために表現しているってことね。
その違いを知って、何か自分に影響はあった?
和田:もっと自己主張するべきだな、と思うようになりました。例えば、家族でしっかりコミュニケーションをとれている関係性でさえも、思った通り伝わらなかったり、察してくれなかったりしますよね。言っても伝わらない時があるのに、言わなきゃ伝わるわけがないよなと。このことに気が付けたのは、日本から出て、違う文化に足を踏み入れたからこそでした。まぁ、向こうではそもそも、英語力の問題で自己主張がうまくできなかったんですけど(笑)。
坂本:でも、そういうことに改めて気づくことができたっていうことが大きいよね。
ちなみにね、僕の人生のテーマがあるんだけど、「冒険」なのね。やっぱり和田くんも、日本という自分の国を出て冒険したからこそ、そう感じることができたと思うんだよね……。
あとね、冒険って「らくちんゾーンから出ること」だと思っていて。よくコンフォートゾーンとも言われているけど。この「らくちんゾーンから出る」、これこそが大事だと思うんだ。
和田:一歩踏み出すということですね?
坂本:そう。でもさ、「らくちんゾーンから出る」ってそんなに簡単なことじゃないよね?例えば、新しいこと・慣れないことをするときって緊張したり、ストレスがかかったりする。
外国に行くことだってそう。国も違えば人も違う、文化も違うし考え方も違う。決して楽なことではないんだけど、そういう環境にいると感情が揺れ動く。だから、らくちんゾーンから出たときの、感情が揺れ動くその瞬間を大切にしてほしいんだよね。
和田:感情が揺れ動いたときに、自己探求するっていうことですか?
坂本:まさにそう!!
じゃあ、もう少し分かりやすくするために。実際に和田くんが、カナダで感情が揺れ動いた瞬間はある?難しく考えなくてもいいよ。本当にちょっとしたことでも。英語がうまくできなくて悔しい思いをした瞬間でも。
和田:向こうの空港のチェックインカウンターでの出来事ですね。
その時、カウンターのスタッフの人とうまくコミュニケーションがとれなくて、自分が完全に勘違いをして的外れな受け答えをしちゃったんです。その時に「やれやれ」みたいな感じで苦笑いされてしまって。すごい恥ずかしかったし、めちゃくちゃ悔しい気持ちになりましたね。「こっちだって頑張ってるんです……」みたいな(笑)
坂本:それは和田くんにとって「英語ができなかった」というよりも、円滑なコミュニケーションが取れなかったことと、スタッフの人に笑われてしまったことが悔しかった?
和田:言われてみれば、悔しかったのは英語ができないというより、コミュニケーションがうまく取れなかったことかもしれないですね。あとは、拙いながらもチャレンジ中である英語を苦笑いされてしまったというのも。
坂本:っていうことはね、和田くんが大切にしてることって「コミュニケーションと挑戦」じゃないか、と言える?
慣れない英語で「コミュニケーションがうまく取れなかった」、慣れない英語に「挑戦しているけど苦笑いされてしまった」、この2つのことに対して感情が揺れ動いた、というのであってるかな?
和田:そうですね。体にストレスがぐーーっとかかった感じもしました。
坂本:感情が揺れ動く瞬間って、自分が何を大事にしたいかを教えてくれるんだよね。
ネガティブな感情を持ったときも大事。ポジティブな感情は自分にとって大事なものが満たされているときに持つもので、逆にネガティブな感情はそれが満たされていないことの現れだと思っていて。今回は「コミュニケーションと挑戦」という2つが満たされなかった。感情が揺れ動く時にこういう大切にしたいものが見つかると言うことだと思う。まさにこういうことを追い求めていきたい。それがチャイトークでもあるんだよね。
和田:つながりましたね……。
坂本:きれいにつながったね……(笑)。
和田:そうだ、ずっと気になっていたことがあって。
巷で言われている「インドに行くと人生観が変わる」って本当なんですか?
坂本:これはね、正直に言うと「人による」かな。
たしかに、インドに行って人生観が変わった人をたくさん見てきた。でも、全く変わらなかった人もたくさんいるし、「インドなんて行かなきゃよかった」なんて人もいっぱいいるよ(笑)。
和田:かなり好き嫌いが分かれるんですかね?
坂本:ハッキリ分かれると思うなぁ……。でもやっぱり嫌いなら嫌いで、どうして自分はそう思ったんだろうとか、何が満たされなかったんだろうという探求が大事だよね。自分の価値観を再認識するというか。そうすると極端な話、インドじゃなくたっていいんだよね。
和田:アフリカでも、南米でもアジアでも、国内でもいいですもんね。
坂本:それこそ府中市内でもいいんだよね。
でも、なぜ人生観が変わる国と言えばインドなのかを考えると、インドにはらくちんゾーンの外にあるモノであふれているからだと思う。感情を揺さぶられるようなことが詰まっているんじゃないかな。だから一言でいうならばインドに行くことでインドになんて行かなくて良いと教えてもらえるんだよね。
和田:なんと、そろそろお時間が迫ってきてしまいました。
最後に、坂本さんの次の目標をお聞きしてもいいですか?
坂本:仲間集めかな。多文化共生というテーマで、同じ志を持った仲間とプロジェクトをしたり、もうちょっとこう、なにかできるんじゃないかなと。「多文化共生のまち府中」みたいに、府中がモデル都市みたいになるのも面白いよね。
和田:最近は日本に住む外国人が増えていますよね。
坂本:そうそう。例えば、いまは人手不足から外国人労働者が多くなってきていると思うんだけど、そこでただ単に「人口減少で外国人労働者が必要なんですよ」ってなるだけではなくて。
自分とは異なる他者との出会いっていうのは、自分という認識を強固にしたり、壊したりしてくれる。僕は、他者との出会いが人生を豊かにしてくれるって思っているから、そういう多文化共生のカタチができたらいいよね。
どうせ生きているんだったら面白く生きたいし、どうせ住むなら面白い街にしたい。だから、次の目標は仲間集めかな。
和田:今後、府中がホットなまちになるかもしれませんね。
坂本さん、お忙しいところありがとうございました。
(2024年1月26日 取材・文:インターン 和田 陸人)