<番外編>榊 啓子(府中市市民活動センター プラッツ職員)
協働まつりをはじめ、プラッツ主催のイベントチラシ作成を多く手掛ける榊。幼い頃からたくさんの絵画に触れることで磨かれた感性は、自身で絵を描いて表現することにとどまらず、たくさんの人の「楽しい!」を応援するために力を発揮しています。鳥がさえずる森林のように、周囲にマイナスイオンを発生させる、そんな彼女の胸の中にある「大好き」とは何なのでしょう?
「「大好き」は、いつも胸の中に」
榊 啓子(府中市市民活動センター プラッツ職員)
(撮影:田口裕太)
協働まつりをはじめ、プラッツ主催のイベントチラシ作成を多く手掛ける榊。幼い頃からたくさんの絵画に触れることで磨かれた感性は、自身で絵を描いて表現することにとどまらず、たくさんの人の「楽しい!」を応援するために力を発揮しています。鳥がさえずる森林のように、周囲にマイナスイオンを発生させる、そんな彼女の胸の中にある「大好き」とは何なのでしょう?
歯みがきみたいに、絵を見る
「子どもの頃から画家の父に連れられて、銀座のギャラリーや上野の美術館に行っていました。毎日毎日、絵を見ていましたね、歯みがきするみたいに、自然に。
父はすごく楽しい人で、人懐っこくてお茶目なんです。考え方が自由で、何でも許容してくれて。そばにいるみんなを楽しい気持ちにさせていました。私の描いた絵も、いつもほめてくれてね」
絵を見に行くなんていうと、私なんかはかしこまって、普段着じゃ行けないな、とか思ってしまうのですが。日常の一コマだと、そんな感じではないんですかね?それとも、やはりちょっとおしゃれして行くんですか?
「白ウサギみたいな毛皮のコートを着ていた記憶があります。フードとボンボンが付いていてお気に入りでした。
母はピアノの先生をしていましたが、もともとは芸大で声楽を専攻していて、歌うことが大好き。家でもしょっちゅうオペラを歌っていました。
私が家で歌っていると、母がそばに来て『こうやって頭のてっぺんからつるされているみたいに、ここから声を出すのよ』って教えてくれるんです。ただなんとなく歌っているだけでも(笑)。笑い上戸で、面白い人でした」
いいですね、楽しいご両親ですね。
「そうですね、楽しかったですね。子どもの頃に押さえつけられずにのびのび育ったという点で、とても両親に感謝しています。
学校もユニークで、高校から女子美なんですが、独特の世界観を持っている人がたくさんいました。いわゆるオタクっぽい、という感じかもしれません、ひとつのことに没頭して、そのことにとても詳しかったり。
私はそのまま美大に進んで日本画を専攻し、日本美術院展に最年少で入賞したりと順調でしたが、その後美術展に出品する活動は休止し、絵本やDVDのイラスト制作、世界の絵本展や環境展の制作、絵画教室の先生をしたりと、細々と絵に関わる仕事を続けてきました」
「長月6人展」(2017年開催)。陶芸家3人、画家3人が、「秋」をテーマしたそれぞれの作品を展示。
「合言葉はJOSHIBI」展(2018年開催)。府中市在住・在勤の女子美術大学卒業生5人の合同展にて、日本画を出展。
「私は、できるんだ!」
「子ども向けの絵画教室で、長い間教えていました。
とにかくほめるようにしていましたね。どんな絵でも、すごい!上手!いいところに気がついたね!…って。なんでもほめる。その子のいいところは、どんどんどんどん。
否定されたり、最初からダメって言われたりすると、特に子どもは素直だから『あ、自分はダメなんだ、へたくそなんだ』って思ってしまいます。
人生には避けることができない困難がいっぱいあるし、そういうことを頑張って乗り越えながら生きていくしかない。そのためには心の根底に、『私は大丈夫なんだ、できるんだ』『まわりの人から認められているんだ』という確信が必要なんだと思います」
絵を描くのが好きで絵画教室に来ているお子さんたちなんでしょうけど、気分が乗らなくて描けないなあ、という時もあるんじゃないかと思うのですが。そんな時は、何かうまい言葉かけをするんですか?
「言葉をかけるというよりは、雑談をしていましたね。その子に『今、何が好きなの?』って聞くんです。そうすると、例えばゲームが好きっていう子は、あのゲーム知ってるとか、これやったことがあるとかどんどん話し出すし、女の子だったらガールズトーク的な話とかね、私の知らない世界のことを教えてもらったり。『え、なになに、それ何なの?』って言うと喜んで話してくれるので。
好きなものを自分の中によみがえらせることで、気分が上がって楽しくなって、作品にもそれが反映されます。絵だけに限らないですよね、たぶん。人間が何かをしようとする時は楽しくないと。苦しかったりつらかったり、やらないと叱られるからという気持ちでは、やる気は出ないですよね。
だから子どもたちと仲良くなって、ワクワクウキウキするような環境を、雰囲気を、空気を作るように心がけていました」
目指しているのは「幸せになること」
「15年くらい前、八王子にある長池公園の体験学習施設で、大人の水彩画教室を開催していました。その時に施設を管理しているNPOの理事長にお声がけいただいたことがきっかけで、施設のお手伝いをすることになり、今でもそのNPOのメンバーとして、ネイチャークラフト・ネイチャーゲームなどのイベント企画やチラシの作成をしています。
長池公園のある南大沢周辺は『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台になったところで、多摩ニュータウンができてたくさんの人が越してきました。一気に人口は増えたんですが、昔から住んでいる人たちとの交流はあまりないままだったんです。
地域の人たちみんなが一緒に楽しめるイベントができるといいなと、2015年から『大栗川キャンドルリバー』を開催しています。紙コップにキャンドルを入れたものを3万個以上、大栗川沿いに並べるんですよ。夕方から夜へとだんだん暗くなっていく中にキャンドルの光がゆらゆらとして、とても幻想的です」
地元の人たちが実行委員として企画運営するイベントで、新旧住民が交流し、地域を活性化させていく。まさに市民活動ですね。
「はい、でもこれを市民活動っていう言葉でくくる必要はないと思っているんです。
キャンドルリバーならば、実行委員が70人くらい、当日のボランティアは700人くらい。他にも協賛・協力していただいた企業や、周辺の学校の子どもたちや住民のみなさん、そしてキャンドルを見に来てくださった方々もたくさん。いろんな関わり方の人がいます。
今年は見るだけだった人が、来年はボランティアをしたり、その次は実行委員会に入ってくれたりしたら嬉しいけど、でも全員がそうならなくたっていいですよね。興味を持って来てくれて、きれいねーってキャンドルを眺めてゆったりした気持ちになってくれたらそれでいい。
人生の目的、誰もが目指しているのは『幸せになること』で、心も体も健康で生き生きと輝くこと。じゃあ何をしている時が幸せなのかっていうと、それは人それぞれです。並べられたキャンドルを見て幸せな気分になって帰る人もいるし、自分で並べたいな、そしてそれを他の人に見てもらうのが幸せだなって人もいる。
『キャンドルリバー』を通して、みんなが地域を大切に思うようになってもらえたら、それでいいんじゃないでしょうか」
大栗川キャンドルリバーのマスコットキャラクター、「キャンドルちゃん」(キャラクターデザイン:榊啓子)
誰かの「楽しい!」の、お手伝い
榊さんにとって、今一番楽しいこと、幸せなことって何ですか?
「うーん、そうだなあ……。遠い先のことじゃなくて、来月ちょっと時間が取れたら息子のところに行って一緒にごはん食べたいなとか。いつかまた娘と海外旅行へ行って、いろいろな国の美術館へ行きたいなとか。そういう感じです。小さな幸せですよね、目先の(笑)」
でもそれは、榊さんが今まで作りあげてきた人生の結晶ですもんね。
お父さんと一緒に絵を見ていた、ウサギみたいに小さい女の子が、大人になって今度はお子さんと一緒に絵を見に行くって、とても素敵ですね。
「現実はなかなか予定が合わなくて、時間が取れないんですが」
プラッツで開催するイベントのチラシも、いろいろと作っていただいて。忙しいですよね。しかも私みたいにデザインのことを何もわかっていない人間が、もっとこうしてああしてって好き勝手なことを言って。本当にすみません。
「それぞれの思いをなるべく尊重したいですし、前向きに考えて、楽しんで取り組みたいですよね。そしていいものを作っていきたい。そういう自分なりの目標は、いつも胸の中にあります」
私が企画したイベントのチラシを榊さんに作ってもらうと、他のスタッフから、すごくイメージにあってるって言われます。神名川が描いているコンセプトに、ぴったりのチラシだねって。
「それはよかったです。神名川さんが楽しく取り組める、そのためのお手伝いができているなら、よかったなあと思います」
(2020年6月20日 インタビュー・文/神名川)
2019年11月 市民協働まつりにて(京王電鉄キャラクター けい太くんと一緒に)