【団体交流事業】防災シミュレーションゲーム「クロスロード府中版」実施報告
いざ災害が起きたとき、普段のつながりを活かすことや訓練していること以上のことは、なかなかできないものです。災害シミュレーションゲームで想像力を高め、さらに知り合った団体(人)同士のつながりを作る目的で実施しました。
防災シミュレーションゲーム「クロスロード府中版」イベントレポート
今年度は団体交流事業のひとつとして、防災シミュレーションゲーム「クロスロード+one」の実施で企画いたしました。クロスロードとは、阪神・淡路大震災で、災害対応にあたった神戸市職員へのインタビューをもとに作成された、カードゲーム形式の防災教材をベースに、都域(周辺域含む)ではクロスロード+one(プラスワン)として実施しています。
従来のクロスロードでは、お題に対してA・B案の2つの選択肢があるだけなのですが、今回の実施では+oneとして、参加者自身が考える第三の選択を考えるワークショップになっています。
これは、様々なケースに限られた条件での選択を柔軟に増やす訓練にもつながる、東京都災害ボランティアセンターアクションプラン推進会議(事務局:東京ボランティア・市民活動センター)で企画されているワークショップです。
※今回は、特別にどのような内容の問題があったのかを下部に掲載いたしますので、当報告ページをご覧の方は実際にご家族や友人知人などとご一緒にやってみてください。
実施日時:2月19日(日) 14時~16時30分
実施場所:プラッツ6階 第5会議室
準備会
今回の企画では、市民活動団体で活躍する方々に準備段階から協力いただけるよう個々にお声掛けをいたしました。
・地域コミュニティ(多世代、多様な背景の方を含む)
桑田厚子さん(コミュニティガーデンカフェ きゅ庵 / メーテル)
・障がい当事者
高橋隆行さん(府中視覚障害者福祉協会)
小野寺敏雄さん(府中市聴覚障害者協会)
・子育て支援
成川綾さん(NPO法人ママチャーリーズ)
・自治会、防災活動
林田健一さん(リムザ自治会)
・アドバイス協力
岩瀬陽祐さん(社会福祉法人 府中市社会福祉協議会)
・事業全般協力
加納佑一さん(東京ボランティア・市民活動センター)
福田信章さん(東京災害ボランティアネットワーク)
上記の方々に、昨年(2022年)10月からご協力いただき、今回は、4問の設問を準備できました。
準備会に参加された方々の背景を活かした設問でどれも悩まずにはいられない内容です。
準備会を通してもお互いの背景に新たに気づく場面もあり、ゲームを体験する以上に問題作りは思考をめぐらすこと自体が訓練につながると実感します。
開催当日の様子
当日は、18名の申し込みがあり、準備会から参加されたグループの進行約を含め総勢24名(4グループ)でのワークを実施しました。
各設問では各グループで特色が出る場合もあり、例えばクロスロードの回答で、グループ内でA案の回答が多いが、全体でみるとB案が多くなったりと、その場にいる人で選択が変わることがうかがえます。
また、どちらかの回答をしたとしても周りの方の意見を聞くうちに、もう一つの案に変更する方もいたり、状況やその時に居合わせた方で変わることもあるということ分かります。
+oneの回答では、本当に様々な回答があり、中には発災前からの取り組みが必要だという旨の回答も散見し、第三の選択をして最適解を導こうと積極的な意見が交わされていました。
※回答結果等は最下部に掲載します。
参加者の感想
・いろいろな考え方があること、どれも間違っていないことが分かりました。また、視覚障害、聴覚障害のある方の声も聞けてよかったです。
・防災について危機感を持ってお互いに話し合う勉強する機会がなく新鮮な気持ちで話を聞くことが出来た。
・防災を色々学びたいと思っているので、機会があればまた参加したいです。
など
クロスロード府中版問題集
やり方
(1)各問題文の後に、2つの選択肢があるので、まずはどちらかを選びます。
(2)選んだ選択肢について、なぜそれを選択したのかを答えます。(グループで共有)
※回答は1人1~2分程度の短い時間で伝えます。
(3)(2)を全員共有した後に、選択肢以外に自分だったらどうするかを考えて答えます。(グループで共有)
※回答は1人1~2分程度の短い時間で伝えます。また、特になければ答えなくても良いです。
条件
・3~5人くらいのグループが望ましいです。5人を超える場合は2つのグループに分けます。
・回答には正解も最適解も決まっているわけではありません。実際にも選択した後に状況が変わることもありますので、他の人の回答は否定せず、肯定的に理解しましょう。
・参加者同士が、お互いを慮り、ひとりで長い時間回答しないなど配慮をする。また、回答理由の背景にある個人の特性を理解することも目的の一つです。
※この場合の特性とは、障がいや病気、個人に由来する思考や言動すべてが当てはまります。
お題1
都内で発生した大地震から2日後。あなたが住む府中市でも震度6強という大きな揺れに見舞われた。幸いにもあなた自身や家族は大きなけがもなかった。ただし、住んでいるマンションでは、倒壊こそ免れたものの、家の中は倒れた家具等で散々な状態となっている。他の家も同様のようだ。特に困っているのが、停電と断水だ。行政の情報によれば、停電は明日にでも復旧するとの見通しが立っているそうだが、断水については回復の見通しが立っていないとのこと。そのため、府中市内、避難所がいくつも開設され、この周辺でも近くの小学校が避難所として開設されている。
あなたはマンション自治会の防災部に所属していることもあり、発災直後からマンション住民への支援に取り掛かっている。マンションに住む人の中には、避難所に行く人、在宅避難を続ける方それぞれとなっている。もともと住民には高齢者も多く、行政の災害対策本部から出されている情報をうまくキャッチできない人もいる。そのため、在宅避難を続ける方へ自治会の掲示板等で情報を伝えたり、できる範囲の中で、少し気になる方へは個別に声をかけたりしている。
そんな中、以前より顔見知りであったマンション4階に住む80代のAさんから声をかけられた。AさんとBさんは高齢夫婦でこのマンションに住んでいる。Aさん「いつも動いてくれてありがとう。もし、知ってれば教えてほしいんだけど、うちの自治会に台車みたいなものはないだろうか。水がないと生活できなくて、ここ数日、給水場所から手で水を運んでいたんだけど、身体がついていなくて。」とのこと。給水場所からマンションまでの移動だけでも台車で運びたい、とのことだった。自治会が保有する台車はあるのだが、他の支援活動で常に稼働しており、個別にお貸しできそうにもない。そのことをAさんに伝えるととても残念そうだった。近くに開設されている避難所には行かないのか聞いたところ、「避難時には一度行ってみたけど、すぐに戻ってきてしまった。自宅にいた方が温かいし、人目も気にしなくてすむしね」とのことだった。高齢夫婦には避難所暮らしは厳しいと感じられたのかもしれない。Aさんは、今後の避難生活について、どうしたらよいか、あなたに尋ねてきました。
Aさんの気持ちを考えると、自宅で避難生活を続けてもらいたいとは思うが、誰か手助けをしてくれる人も思い当たらない。断水の状況が今後も続くことを考えると、今の状態を続けていくのは難しいのではないか、自宅で体調を崩してしまう状況も出てくるのではないか、という思いがだんだん強くなってきた。避難所に行けば、食事や水のことなどは心配する必要はなくなる。また、高齢者などの体の弱い人へのスペースも作るというような話も聞いたことがある。一方、東日本大震災のニュースでは「災害関連死」として避難所で亡くなられた方も多かったという話も頭をよぎる。
あなたは、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
A案:断水がいつ解消するか分からないし、すぐに水を運べる協力者も思い当たらないので、もう一度、避難所での生活を検討してみてはどうかと提案する。
B案:Aさん自身、一度、避難所での暮らしは見て難しいと判断している。厳しいかもしれないが、少しの期間、給水場所からご自身で運んでもらいつつ、手伝ってくれる人を探す。
お題2
近年、各地で水害が多く発生している。あなたの住むマンションも多摩川沿いに立地しており、水害の危険性が高くなっている。府中市のハザードマップによると、大雨が降り、多摩川の堤防が決壊したり越水したりすると、マンションの2階部分まで浸水する危険があるとされている。また、ひとたびその浸水が起きた場合は、3日程度は水が引かないとの予想結果が示されている。
あなたはマンションの3階に住んでいるため、ハザードマップ上は浸水の想定はされていないが、聴覚に障害があるため、災害に対する不安は大きかった。
10月の上旬、台風15号が関東地区に接近していた。前の台風14号がこれまでにない規模での上陸となり、多くの市民が避難したにもかかわらず、空振りに終わり、ほっとしていたこと、また、台風15号の中心気圧はそれほど低くなかったことから、台風15号の上陸1日前であったものの、危機感を持つ市民はそれほど多くいなかった。
しかし、台風上陸となった当日は、東京全域が雨雲に覆われ、記録的な大雨となった。それでも、台風14号のときと比較すると、ニュースも少なくまだ余裕があったように思われる。様子が変わってきたのは、昼過ぎからだ。雨が止む気配がない。バケツをひっくり返したように雨が降り続いている。
しかし、登録している市の防災メールでは、避難情報があれば送られてくるようになっているが、避難情報は送られてこなかった。避難した方が良いのか考えているうちに夕方になり、あたりが暗くなり始めていた。
夜19時になり、市の防災メールで避難指示の情報が送られてきた。多摩川の水量が上がり、危険が迫っているとのこと。ニュースでは、近所に開設された避難所の様子が映し出されており、多くの人が避難していることを知った。聞くと、夕方、多摩川沿いの自治会を中心に、自主的に地域で避難の呼びかけが行われていたようだ。雨音も大きかったし、聴覚障害があることから、聞こえなかったのかもしれない。
既に夜遅い時間で雨もまだ強く降り続いている。現段階でも水位は増え続けている。逆に今から避難する方が危険になるのではないか、視界も悪く、耳が聞こえない中で安全に避難できるのか、そんなことも頭をよぎる。しかし、もし多摩川が決壊でもしたら、3階とはいえ絶対に安全とは言い切れない。既に多くの人が避難していることも心配を増幅させる。あなたならどちらを選択しますか?
A:夜、雨が降る中ではあるが、ハザードマップ上、浸水被害が及ばない、避難所に避難する。
B:3階にいれば浸水による直接被害は避けられるため3階の自宅に留まる。
お題3
大地震が発生してから4日後。
府中市が開設した避難所では、多くの市民が避難生活を送っている。幸いにもあなたの家や家族には被害がなかった。あなたは自主防災組織の役員の一人として、避難所の運営を切り盛りしている。あなたが避難している中学校には、600人を超える人が避難してきており、まさに混乱を極めている状態だ。
そこに一人、視覚障害のある方(Dさん)が避難されてきた。声をかけてみたところ、「避難所の生活は相当過酷になるだろうと思っていたので、数日間はなんとか自宅での生活を続けていたのですが…。うちの地域は、断水が長く続くことが想定されていて、数日はなんとか持ちこたえられましたが、できれば、こちらでお世話になれるとありがたいです」とのこと。どうやら、意を決して避難所に来られたようだ。視覚障害の人と話をするのは初めてであり、何を聞いたら良いのかわからなかったが、一通り、避難所のレイアウト、トイレの場所や食事のことなどを伝えた。また、情報はスピーカーでも案内していることを簡単に伝えた。運よくトイレまでは壁伝いに行けばたどり着けるところにDさんのスペースを確保することができたが、避難所の運営もまだ安定しておらず、正直、Dさんにどこまで配慮ができるか分からない。むしろ、ほとんどできないことの方が多いのではないか。取り急ぎ、運営の窓口は自分なので何かあれば、声をかけてほしい旨、Dさんに伝えた。
3日後、避難所の運営委員会で、Dさんの対応について議題となった。
・音声案内をなるべく詳細に伝えようと情報量を増やしたら、避難者から音声案内が多すぎてうるさいとクレームが入った。情報は、掲示板に貼ってあるのだから、掲示板情報を更新したことのみを音声で伝えれば良いのではないか、との意見のようだ。
・Dさんからも「受付の場所が変わったため、場所が分からなくなってしまった。」「運営者じゃない人に運営者と思って話しかけていて、話が通じなかった。」「性別の違うトイレの方に入ってしまい、他の避難者を驚かせてしまった」などの相談もあった。
会議では、Dさんに対して、なるべくもう少し工夫をしてサポートしようということで一致した。ところが、その工夫の方法によって、意見が割れてしまった。一つの意見は、いま、避難所には視覚障害者はDさん一人しかいないのだから、この運営メンバーの中で数人担当者を決めて、その担当者がDさんへのフォローをするのが良い、責任も明確になるとの意見。もう1つの意見は、明確にはなるかもしれないが、担当者がいつも事務所にいるわけでもないし、全員がDさんのことを意識することも大事ではないか、担当制にすると、他人任せになってしまう、みんなでサポートしていくことが大事ではないか、との意見に分かれた。
あなたならどちらの意見に賛同しますか?
A案:運営メンバーの中で数人担当者を決めて、その担当者がDさんへのフォローをする。
B案:特段、担当者は決めず、全員がDさんへのサポートを意識して対応する。
お題4
あなたは、都心で働く会社員(共働き夫婦)。夫婦とも府中市から毎日電車で都心まで通っている。子どもは幼児が1人。府中市内の保育園へ預けている。午後5時に大地震が発生。幸い会社のビルには大きな被害がなく、防災センターからも建物は安全であることが告げられた。一方、地震は多摩地域が震源であることが分かり、多くの従業員が家族の安否確認を急いでいる。
夫婦間ではSNSで連絡が取れた。相手方は通信関係の仕事のため、緊急対応が求められているとのこと。一方、子どもを預けている保育園にも連絡を試みたが、そもそも電話機能が使用不可の状態となっている。携帯会社が接続量を制限しているようだ。預け先の建物はそれほど古くないので揺れで倒壊するとは思えないが、火災の可能性もあるので心配だ。東京都帰宅困難者条例では、家族の安否確認が取れたら、なるべく歩いての帰宅はせず、事業所にとどまることとなっている。しかし、今は安否が確認できていない。電話も一向につながらず、いつになったら連絡が取れるようになるのか分からない。そうこうしているうちに、日も暮れてきた。歩いて帰るのであれば早いうちに判断した方が良い。
職場から府中市まで歩いて帰るとなると確実に5時間はかかる。しかも、幹線道路は歩いて帰る人でごった返しており、このままでいくといつ保育園につけるか分からない状況だ。保育園は夜遅くまで待ってくれるのだろうか。多摩地域が震源とのことで、府中市までの道のりの被害状況も気になるところだ。ニュースでは杉並区や世田谷区で火災が発生しているとの情報も入っている。また、災害時は非常に治安が悪くなるとも聞く。
このような状況の中、あなたなら、子どもの安否を確認するために歩いて府中市まで帰りますか?
A案:幹線道路を通って、なるべく早く徒歩で保育園に向かう。
B案:二次災害に遭うことも想定されるため、通信環境が整って保育園と連絡が取れるまで会社で待つ。
それぞれの回答結果(全体での集約およびコメントの抜粋)
【回答集計】(人)
お題1 : A=13、B=13
お題2 : A= 5、B=22
お題3 : A=14、B=12
お題4 : A=11、B=15
【意見集約:クロスロード】
お題1 :
→A案 避難所のほうが助けてくださる方がいる。安心できる。
→B案 高齢者には避難所生活はきついので、自宅にいるほうが望ましい。
お題2 :
→A案 避難指示が出ているため
→B案 3階へ水害の影響が出そうな場合さらに上の階へ垂直避難することもできる
お題3 :
→A案 多数の人に手間をかけるのは申し訳ないのでAにした。わかっている人が対応するほうが安心。
→B案 皆でケアすると負担が軽減される。 皆で意識することが大切。
お題4 :
→A案 家族が一番。ルールよりも家族のほうが勝るのでAにしてしまう。何かあってからでは遅い。
→B案 親の責任という意味でも、危険を冒さないようにする。職員の立場もわかるので難しい。
【意見集約:+one(C案)】
お題1 : 給水場所の視覚化やサポートできる方法を検討する。日ごろのコミュニケーションが大切。
お題2 : 廊下も避難場所としての活用を考える。聞こえない人は聞こえる人とSNSでやり取りできる関係を持つ。
お題3 : 事務所の近くにいてもらう。担当は決めて鈴などを付けいることがわかると安心するのではないか。
お題4 : 事前に保育園との取り決めがあると良い。親同士のSNSも含むネットワークを作っておくとよい。
この事業に関する問い合わせ
担当 高橋、田代
◆この実施の広報ページは以下のURLです。
http://www.fuchu-platz.jp/event/1002723/1006147/1006140.html