【講演会】「~神奈川県の海岸線435.09kmをごみ拾いで踏破! プラスチックごみから海の生き物を守る プラごみバスターズ 豊田直之の挑戦」 開催レポート
プラスチックごみの回収と減量のために、ユニークな企画で人々を巻き込みながら活動する冒険写真家 豊田直之さん(NPO法人海の森・山の森事務局理事長)の講演会を開催しました。
大変です!海洋プラスチックごみ
水中写真家として活動する中、オーストラリアの人々から海の中に大量のプラごみがあるという話を聞いたのがきっかけでプラごみを拾う活動を始めました。
町中から流出しているごみが海底に沈み、海の生物に影響を及ぼしています。
例えば、「サンゴの赤ちゃんにビニール袋が被っていて、赤ちゃんはえさを食べることもできなくなってしまう」「ウミドリがつついておなかの中に入れてしまう」など、知らず知らずのうちに生き物が苦しめられているのです。
マイクロプラスチックはどうやってできるの?
実際に海に潜ってみると、プラスチックのごみが海底の中に山のように堆積している場所がありました。取ろうとするとプラスチックが劣化してぼろぼろになって、拾うことすらできない状態になっていました。
プラスチックは、太陽の光で劣化し、波の力で押しつぶされて細かくなってしまうのです。「海に流出させてしまうと、どんどんマイクロプラスチックを増やしてしまう」という現象が起きてしまうのです。
ちゃんと分別して出しているはずなのに、なぜ海にこんなに流れてしまうのでしょうか?
5mm以下の大きさのプラスチックの破片をマイクロプラスチックといいます。
10年以上前は歯磨き粉やスクラブなどにナノプラスチックが使われていましたので、それが洗面台から下水を伝わり、川から海へ流れ出ていたのです。
排水溝に吸殻を捨てると、たばこの先のマイクロプラスチックが流れます。また、小さな飴のつつみも、排水溝から雨などで流れたり、カラスがつついてそのまま川や海に流れてしまうのです。
プラスチックは人間が作った素晴らしい素材でもあります。どんな形にも変形でき、あまりにも使い勝手がよいので大量に増えてしまったのです。
どうすればプラスチックを海に流さないようにできるのでしょうか?
プラごみバスターズはどうして生まれた?
コロナ禍でもマイクロプラスチックを増やさないためにできることを仲間と考え、まずは海岸沿いのごみ拾いを始めようと、2020年4月に湯河原からスタートしました。
たくさんの人たちが集まってごみ拾いができなくなりましたが、3人だけでも継続しようと、活動の足は止めることなく、現在は3匹のおっさん+2名の5人で行っています。
ごみ拾いを通して様々な課題にも気づくことができました。例えば、市町村でのごみの分別の仕方がバラバラな点です。その場所にどれくらいのプラごみがあるかなどをグラフにし、データ化して、それぞれの場所の課題点を示し、改善案を自治体に提案していきたいと思っています。
名企画は「餃子の王将」会議から
レコプラダイエット
「餃子の王将」で会議を行うのは、気を遣わず話せること、居酒屋のように周りもそんなに騒がしくないからです。リラックスしているときこそ、新しいアイディアが生まれてくるのです。
県内の小学校で総合的な学習の時間に呼ばれることが多いのですが、餃子の王将会議を経て生まれたアイディアから、「3日間、みんなのうちでどんなプラスチックが出るか調べること」を思いつき、Facebookのページに投稿してもらうようにしました。親御さんも協力してそれぞれの家庭で面白い報告例が出てきました。
記録することでごみをスリム化できたのです。
1週間で700グラムのプラごみ出していたということを知り、減らすための工夫を始めました。例えば、レモンサワーを作るため、ソーダストリームを購入したり、野菜ジュースも紙パックに変えたり、ヨーグルトも自分で作り始めてみました。その結果、700グラムあったごみを40グラムまで減らすことができたのです。この活動が広がって、1人から10人、100人と、多くの方につなぐことになれば、すごい数のプラごみが減ることになるのではないかと思います。
IPS(いきものをプラスチックから救え)アオバトをマイクロプラスチックから救え
野鳥観察が好きなメンバーから、「アオバトが群れで飛んできて海水を飲む時に海水にマイクロプラスチックが入っていたらかわいそうだ」という話を受け、「毎月15日にごみ拾いをする」プロジェクトを立ち上げました。
自分たちの足元の写真を撮って、Facebookやインスタグラムに#あしもとから #ashimotokara をつけて投稿してもらいます。こちらはどんどん拡散され、海外からもアクセスが広がっています。
子ども環境サミット
教室を出て海へ行き、海岸に打ちあがっているごみを拾う活動を通して、子どもたちは、体験することで得られる「充実感」と「これだけ海が汚れているんだ」という実感を持ち、アクションを起こしました。ペットボトルから繊維を作る資源循環公社へ行って、拾ったペットボトルと布地を交換し、その布地で作ったエコバッグを地元のスーパーに利用してもらうという取り組みをしたのです。
また、大岡川近くの小学校と一緒にごみ拾いをしながら、「何度も何度もごみ拾いしてもごみが減らない」ということに課題を感じ、川からごみを流さないためにどうしたらよいだろう?と考え、ストローを使わないで飲める牛乳パックを考案し、メーカーの人たちの前でプレゼンもしました。こちらは、一昨年のエコプロでストローを使わない牛乳パックとして、発表されました。牛乳パックのアイディアを出した小学生が中学生になり、将来マイクロプラスチックの研究者を目指したいと言っています。昨年横浜市立中高一貫のサイエンスフロンティアに合格したといううれしい報告もありました。
「海底に蓄積されたプラスチックのごみを回収すると、ぼろぼろに壊れてしまう。埋まってしまうと、見つけることができなくなる。」この問題に対処する方法を探していたところ、「フナムシが胃内でプラスチックを分解する酵素が見つかった」という情報を得ました。
子どもたちは、「フナムシの胃内の酵素を研究する」というテーマをサイエンスフロンティアの小論文の課題に取り上げることになり、こども環境サミットでの発表に向けて準備を進めているところです。
まだまだやりますおもしろ企画
自動的に川を流れるプラごみを回収
川から海にプラごみが流れないようにできる事として、企業と一緒に大岡川でごみの流出を防ぐ仕組みを考えており、実証実験を進めています。これらが実用化されたら、全国、世界で海に流れるプラごみを防ぐことができるのではないかと、大変期待を膨らませています。
環境問題を自分ごとに
人々を巻き込みながら活動の普及を行っている豊田さんの活動について聞かせていただき、2時間があっという間に過ぎてしまいました。
最後に参加者の皆さんから、「実証実験で行っている防ぐことができるプラごみの大きさについて」とか、「山の方の活動もしていらっしゃるのですますか?」など様々な角度から質疑応答がありましたが、どの質問に対しても丁寧に答えていただきました。
アンケートでは、
「『あしもとから』『レコプラダイエット』など、今からできるヒントを頂けたこと。個人で出来ることは小さく、無力感を感じることもありましたので、元気と勇気を頂きました。」
「プラスチックごみについて小学生が取り組んでいることに、希望を持てました。」
など、環境問題に対して自分事としてとらえ、できるところから取り組もうという意識が高まったのではないかと思います。
豊田さんの写真展も同会場で開催しました。
海洋ごみの実態を浮き彫りにした数々の作品を、皆さん真剣に鑑賞されていました。