尹 鮮希(ゆん そに)さん、平尾 佳奈子(ひらお かなこ)さん(親子リトミック「とんとんぱっ」主宰)
国立音楽大学(音楽教育学科 幼児教育専攻)で出会ってから15年、現在は二人で親子リトミックの会を開催する二人。「いろんなところが違う二人」が、長い間一緒に活動を続けられる秘訣は何でしょう?
似ているところも違うところも、認め合って。
尹 鮮希(ゆん そに)さん(左)、平尾 佳奈子(ひらお かなこ)さん(右)
国立音楽大学(音楽教育学科 幼児教育専攻)で出会ってから15年、現在は二人で親子リトミックの会を開催する二人。「いろんなところが違う二人」が、長い間一緒に活動を続けられる秘訣は何でしょう?
「聴く」ことを大切に
尹「私たちは大学の同級生だったんです。同じ学部で、1年生の最初から友達になって。3年生から更にコースを選択できるのですが、二人ともリトミックコースを選びました。4年間ほぼ毎日一緒にいましたね。まわりもすごく積極的な人たちで、みんなで子ども向けの音楽を作り、幼稚園・保育園・児童館などへ行って発表していました。その時に培った感覚は、今も役立っています」
平尾「私たちが出会って、もう15年くらいになるよね。長いですよね」
尹「卒業して、私は幼稚園に勤めて、平尾さんは音楽教室の先生になって。就職して3年くらいは別れたね」
平尾「そうだね。7年前にとんとんぱっを結成して、今に至ります」
「とんとんぱっ」で開催している親子リトミックの会は、どんなコンセプトで行っていらっしゃるんですか?
尹「実はとんとんぱって、始まってから終わるまでママたちのおしゃべりは『ノー』なんです。始まったらグランドピアノの生演奏にあわせて親子でからだを動かし、お子さんとコミュニケーションを取ることに集中してくださいってお願いしています。とにかく聴くことを大切にしてほしいんです。もちろん始まる前と終わった後は自由にお話いただいていいんですが、ママ友を作ることが目的の会ではないですね。自分と子どものことだけ考えて、音楽を楽しみに来てくれればいいかなって」
平尾「終わったらさっさと帰ってもいいし、残りたかったら残って話をしてもいいし」
尹「そうですね、会が終わったら同じくらいの月齢のママたちで、なんとなく声をかけあってプラッツのキッズスペースに来ているみたいです。でもみんなが行かなくちゃいけないって雰囲気もまったくないので、すぐに帰る方ももちろんいらっしゃいますしね。そのあたりは自由な感じであってほしいです」
ママ友を作りたい気持ちもあるんだけれど、それが目的の場所に行って、もし自分だけ作れなかったらショックですよね。もう二度と行けない。
尹「こういう場所がありがたいっていうママも多いです。グループみたいになっちゃうと、新しい方が入れないですし。初めての方にも、リピーターの方にも、同じように私たちは接したいです」
平尾「そうだよね、そうだよね」
尹「長く続けていて嬉しいのは、二人目の子どもを連れてきてくださる方が最近多いんですよ。グリーンプラザがあった頃、地下の音楽室で開催していた時に来ていた方が、今は下のお子さんと一緒に参加してくださる。それが本当に嬉しいです」
違う目線で
平尾「とんとんぱっは尹さんのおかげで人が集まった感がありますね、すごいコミュニケーション能力なので」
尹「ぱっと見は確かに私の方が目立つ感じがあるんですけど、やっぱり平尾さんの音楽なしでは成り立たない。職人なんですよ、平尾さんは。長いことやっているけれど、1回たりとも同じ音楽はないです。その場その場、即興演奏でね。音楽が大好きで、妥協しないんです。私もそうありたいです」
平尾「尹さんは参加者を親子と思って見ていて、私は生徒と思って見ているかもしれないですね。目線が違う。私は本物の音楽を提供することで、子どもたちが楽しんでいたか、何か成長したか、そういった『体験した結果』が見られると嬉しいです」
尹「私よりもそういう気持ちが強いですね、平尾さんは。だからうまくいかない時は、すごく悔しがっています」
平尾「そうだね、うーってなるね。今日ここが駄目だった、ごめんねっていう日がたまにあって、終わってからもなかなか帰らないでずっと尹さんにあーだこーだ言ってしまう(笑)。発散せずにはいられない。うまくいったらすごく嬉しくて、すぐに家に帰るんですけど」
なるほどね、本当に心を許しているんですね。うまくいかない時に聞いてほしいんですね。
尹さんの、「参加者を親子として見ている」というのはどういうことでしょうか?
尹「参加者のみなさんがとんとんぱっに来るまでも、時間を逆算して朝起きて準備をして、天気や体調もいろいろな中で本当に整えて楽しみに来てくださるってことは忘れたくないな、と思うんです。小さい子どもや親にとって、それは大変なことなので。とんとんぱっでは『リトミックの先生』という立場だけれど、それ以前に私自身も子育て中の母親なので、その視点は大切にしたいです」
ここは私が踏ん張るから!
ずっとお二人で開催されてきたんですか?
平尾「どちらか片方がしばらく抜けたことはあります。私は2017年に3週間、リトミックの勉強のためにアメリカへ留学しました。その間は尹さんにお任せして」
留学して学んだことは大きかったですか?
平尾「それはもう感動でしたね。リトミックはもともと、スイスのダルクローズが考案したものですが、その信念は日本でもちゃんと学べていたんだ、私が学んできたことは間違っていなかったという確信が得られました。それが私の中で大きかったです。
リトミックではまず音楽を聴いて、感じてから動くんです。テンポを変えてピアノを弾いても、『走って』とか『ゆっくり歩いて』とか言わないようにしています。ピアノの音を聴いて、感じたようにのびのびと身体を動かしてほしいです。なになにしましょうって言葉で言うのは簡単だけれど、そうではなくて私の音楽がひとつの言語として伝わった時、その感動はとても大きいです」
尹「みんなで動いて気持ちいいって瞬間があったり、その中でちょっと違う動きをする子がいても、あ、その動き面白いねってみんなで認め合えたり。とんとんぱっはそういう空間にしたいですね」
平尾さんが留学されているあいだ、尹さんはお一人でされていたんですか?
尹「友人に応援に来てもらって、いつもの二人とは違う音楽を紹介できたと思います。『ここは私が踏ん張るから!』という気持ちもありましたし。逆に私が二人目の出産をした時は、平尾さんが『頑張るよ、大丈夫だよ』って言ってくれて、お休みをもらいました」
小さいお子さんがいる中で、活動を続けることは大変ではないですか?
尹「もちろん育児をしながらだと大変なことばかりですが、それを苦だと思ったことはないです。とんとんぱっを始めたのも、自分の子どもを通わせたい場所を作りたかったことがきっかけなので。おなかが大きい時にもぎりぎりまでやっていたし、産まれてからはベビーカーで会場へ連れて行って、部屋のすみに寝かせていました。今は娘も6歳と3歳になり、いろいろな親子イベントに子連れでよく行くんです。そこでとんとんぱっに来てくださっている親子に会うと、リトミックの先生ではなく、同じ子育て中のママとしてみなさんと楽しめますよね。それはとても嬉しいです」
「こんな人に会えるなんて」
これからやりたいことは何ですか?
平尾「とんとんぱっとしては今のまま、できることを無理せず、でもやるからには本物の音楽を提供していきたいです。また個人的には、それぞれやりたいことはありますね」
尹「そうですね。私は大学の時、『緊張と弛緩が遊び』だと教わったんです。それが私の原点になっている気がします。じゃんけん、ぽん、とか、いないいない、ばあ、とか、一番シンプルな世界共通の遊びですよね。緊張があって弛緩があるから遊びは面白いんだと思います。心に響くものって意外にシンプルであったりするので、それを子どもも大人も一緒に楽しんでいきたいです」
平尾「私はもう、内にこもりたい。こもって極めたいです、音楽を」
まさに職人魂ですね。でも平尾さんも、参加した子どもの反応や成長を気にして、うまくいかなかったら落ち込むとかね、けっして内に入っているだけの方ではない気がします。
子どもを相手にして音楽をやるというのは、何か思いがあったんですか?
平尾「私はもともと、ピアノがあまり好きじゃなかったんです。小さい時から習ってはいたけれど、全然練習しませんでした。中学生くらいから音大に行きたいと思ったんで、そこからしんどかったです。だから自分の生徒には、子どもの頃から『ピアノを弾くのって楽しいな』と思ってほしい。それが一番の願いですね」
尹「大学の時、すごくピアノ頑張ってたよね。平尾さんも自分の中で、自分自身に負けたくないという気持ちがあるんだと思います。自分が妥協しちゃったら悔しい。似てるよね、私たち」
平尾「そうだね。負けず嫌いはお互いあるよね」
尹「私にないものを平尾さんはたくさん持っています。でも平尾さんも、自分の中で悩んだり戦ったりしていて、私も私なりにそういうことがあって。悔しい思いをお互いにしながら成長しているのかな」
お互いの生き方も音楽も、似ているところも違うところも、認め合っているのはすごいことですよね。
平尾「そうですね、こんな人に会えるなんて」
尹「私も思います、こんな人に会えるなんて」
お互いそう言い合える人に会えるなんて(笑)。だからお二人がうらやましいです。読みきかせも、お二人の雰囲気は他の誰にも出せないですよね。
平尾「尹さんが読んで、私がピアノで伴奏をつけるのですが、言葉じゃなくて別の何かで会話しているよね。めくっていい? めくっちゃだめ? みたいな」
尹「そうだね。読みながら、弾きながら、心で話しているよね」
自慢の相方
尹「府中、好きだなーって思うんですよ。イベントに参加してくださるみなさんや、定期的に開催できる公共施設があることなどに助けられてここまでやってこられたので。市民活動センターですよね、プラッツは。で、とんとんぱっは団体登録もしているんですけど、正直にいうと私たちは音楽がやりたくて始めたので市民活動をしようとは思っていなかったです」
平尾「そうだよね」
尹「誰かのためにっていうよりも、自分たちのためにやったっていうほうが大きいです。でもそれが結果として人とつながり、喜んでくださる方がいる……。不思議な感じです。参加してくださる親子はもちろん、そのほかいろいろなかたちで力を貸してくださった方々にとても感謝しています」
このインタビュー記事で、「これは書いてほしい」ということは何ですか?
尹「平尾さんの良さを文章で伝えてほしいです。私のほうがみなさんと接する機会が多いので、『相方が』『平尾さんが』と言ってもみなさん誰なのかよくわからない(笑)」
平尾「なんか私、外に出なさすぎかも」
尹「いや、私が秘めていたかったんです。表に出すのがもったいなくて。こんなに素敵な、自慢の相方。わかる人にはわかる良さ。誰かが言ってたよ、『平尾さんスルメみたい』って。いろんなものを積み上げてきて今の平尾さんになって、噛めば噛むほど味が出てくる、そんなスルメ(笑)」
平尾「尹さんは、いつも他の人のことを考えていますね。そこが本当にすごい。どうしたらみんなが楽しんでくれるか、すべての人に気配りをしています。尹さんも職人なんですよ、幼児音楽に真剣に取り組んでいて、かつコミュニケーションの達人。心から尊敬する、よきライバルです」
尹「参加者のアンケートでよく書いてあるのが、『二人の雰囲気が好き』。そう言ってもらえると本当に嬉しくて、泣きそうになっちゃいますね」
(2019年4月4日 インタビュー)
(イベント写真:同年5月に開催された【プラっとカフェ】読み聞かせの世界~音楽と一緒に~ で撮影)