プラッツ情報誌kokoiko第22号2022.10.1
第22号のテーマは「ソーシャルマーケティング」
大量消費の時代に生まれた「マーケティング」は、時代とともに新しい手法に代わりつつあります。ただ売るだけではなく、地域や社会のことを考えた商品やサービスの魅力や価値を伝えることも目的とした手法「ソーシャルマーケティング」。市民活動に生かしたら、どんな効果が生まれるのでしょうか?
「売り手、買い手、世間」+α
―「三方よし」から「四方よし」へ。 みんなが「よし!」な社会をめざして―
日本には昔から「三方よし」という言葉があります。
これは近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という経営哲学を表現した言葉で、商いとは売り手と買い手が満足することに加え、「社会貢献になることが大切」という考え方です。
最近は、これにもうひとつ加えた「四方よし」という言葉が生まれているとか。四番目に加えられるのは「未来よし」「働き手よし」「地球よし」などさまざまです。団体や企業の社会的責任が、さらに強く意識される時代になったのですね。
ただ社会的責任などというと大きすぎて、「いやいや、そんなの大企業が考えることでしょ?私たちには関係ないね」といった声も聞こえてきそうですが……。
「自社だけが今、儲けられればいいんだ」ではなく、社会全体が未来も含めて幸せになる「四方よし」。それを実現する手法として、名前はちょいと難しい「ソーシャルマーケティング」があります。そしてこの手法は、企業だけでなく私たちの身近な活動……市民団体、自治会、PTAなどでも使うことができるのです。
自分自身も、仲間たちも、社会全体も、そして次の世代も、みんなが「よし!」になるために。ソーシャルマーケティングの考え方と使い方について、NPO法人NPOサポートセンター代表理事・松本祐一さんにインタビューしました。
売るために生まれた「マーケティング」が 「四方よし」を実現する2つの新しい価値とは?
大量消費の時代に生まれた「マーケティング」は、時代とともに新しい手法に代わりつつあります。ただ売るだけではなく、地域や社会のことを考えた商品やサービスの魅力や価値を伝えることも目的とした手法はどのように生まれたのでしょうか。
松本 祐一 さん
多摩大学経営情報学部教授
NPO法人 NPOサポートセンター代表理事
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。専門はソーシャルマーケティング。学生時代に「国境なき医師団」日本事務局に関わったことをきっかけに学生団体の立ち上げを経験後、市場調査会社で商品開発に携わり2005年から多摩大学総合研究所勤務。2019年4月より現職。多摩地域を中心に企業、行政、NPO の事業開発支援に従事し、セクターを超えた「協創」をコーディネートしている。
そもそもマーケティングってなんですか?
どのような商品をつくるか、また宣伝をどうするか、それを考える方法をマーケティングとよんでいます。その考えに間違いはないのですが、マーケティングが生まれた背景を考えると、その役割がもっと分かりやすくなります。
近代的な企業が世の中に出てきた時は、物が少なかったこともあり、大量生産できることが成功の条件でした。しかし、色々な企業や商品が生まれると、競争がうまれます。もしくは販売されている商品に飽きてしまうということもあります。
そんな時、生産者は売れるように工夫をします。それがマーケティングのスタートです。どうやったら売れるのか考える。つまりマーケティングに必要な条件は、
・競争・変化がある環境の中で
・特定の誰かに売りたい、届けたいと考える状態があり
・新しい考え方や今までにないものを世の中に届ける必要性が生まれる
この3条件がそろってマーケティングの技術が活きてきます。単純に商売だけでなく、新しい活動や価値観を誰にどう届けていくのか、組織の価値観・形態も合わせて考えていくわけです。
ソーシャルマーケティングの扱う新しい価値とは
ではそれを踏まえて「ソーシャルマーケティング」とは何かと言いうと、2つの価値を扱っています。一つ目が「社会的価値」です。今の社会にとって必要な新しい価値観、習慣ですね。これを扱った商品を専門用語で「社会的プロダクト」と呼んでいます。新しい価値観、習慣、考え方を商品ととらえ、普及させていく方法を考えたうえで、サービスや商品にしたものです。
しかし、新しい価値観を普及するために活動しても、それだけではお客は振り向いてくれません。そこにもう一つの価値である「顧客価値」(お客さんにとって価値のある物)が必要となります。
これら両方を扱わないといけないのがソーシャルマーケティングです。
難しいのは「社会的価値」と「顧客価値」が相反してしまうこと。たとえば、環境問題対策としてごみを減らそうと思うと、なにも売らない・買わない方がよい。でもそれでは経済が回せません。そこで、ソーシャルマーケティングを活用して2つの価値を達成するような、今までにはない環境配慮型の商品やサービスを生み出し、販売するという挑戦が必要です。
マーケティングにソーシャル(社会的)という言葉がついた理由
この言葉が出てきた背景として社会課題の解決に、ビジネスのノウハウを使っていこうという流れがあります。例えば、発展途上国支援の一環に、避妊の方法を知ってもらう、また飲み水は煮沸して飲むといった公衆衛生環境の向上があります。この新しい生活習慣や商品を浸透するために、マーケティング技術が活用されることで、数多くの社会課題が解決されてきました。このように新しい価値観を普及させていくことに使われることで、ソーシャルマーケティングの手法が確立してきた歴史があります。
最近では企業も社会貢献のために市民とどのように関係構築をするかといった文脈や、NPOは社会的価値を伝えつつ寄付金を募る方法、また行政は市民へサービスをどのように届けるのが効率的かという、より広い範囲での課題解決にもこの手法が使われています。マーケティングというと一方的にメッセージを伝えるという考えが一般的ですが、この手法は双方向が基本です。より社会、地域、市民にとって良い形を模索していく。双方向を意識した点も新しい点ですね。
暮らしのなかでのソーシャルマーケティング
ソーシャルマーケティングは新しい関係づくりの手法なので、自治会、町内会も使うことができます。ある自治会では、新しい住民の入会が少ない理由は、自治会に興味がないからだと思っていたところ、実は「どこに行けば自治会に入れるのか分からない」もしくは「自治会の意義を知らなかった」だけだった、という話があります。情報の集め方や生活リズムの違いに気が付かないんですよね。
そのような変化を理解して、どうやったら振り向いてくれるのか、「社会的価値」と「顧客価値」からひも解いていけば、何かアイディアが生まれてくるはずです。
ダメな人だ、わかってくれない人だと決めつけた時点でなにも生まなくなってしまう。ポジティブシンキングが大切です。価値観の変化に合わせ意識を変えていく。そうすることで、新しい人も巻き込みながら、地域活動を展開していくことができる。ぜひソーシャルマーケティングをうまく活用してもらいたいです。
ソーシャルマーケティングを団体の活動に活かしてみた!
2022年6月、松本祐一さんを講師に招いた講座をプラッツにて開催しました。講義やワークショップを通し、参加者それぞれが自団体の在り方を考えました。
講座に参加した、i-ze(いーぜ)代表・山根浩子さんに感想を伺いました
松本さんのお話で一番印象的だったのは、『団体が提供する価値を、顧客がどう感じているのか捉えなおす』ということです。顧客の気持ちや行動の変化を理解するために、顧客のがわに立ち、そこからの風景を一緒に見る。そうすると解決すべき課題がはっきりするそうです。
i-zeはたくさんの事業を行っていますが、団体の方向性をしっかりと定め、それぞれのプログラムをつなげて目指すゴールへ向かっていくように松本さんからアドバイスをいただきました。講座で学んだことを活かして、ひとつひとつ焦らず丁寧にやっていこうと思っています。
私たちは『自己肯定感や自尊感情が上がること・自利利他』の考えを意識してきました。i-zeのワークショップに参加することで、自然と笑顔になったり、いつのまにか友達ができていたりするといいですよね。そんなふうにみんなが笑顔になるお手伝いをしていきたいと考えています。
市民活動に必要なノウハウが学べる! プラッツ市民活動専門講座
プラッツでは、市民活動を行っていくうえで必要なノウハウを学び、スキルアップを目指すための講座として、今回取材をさせていただいた「事業戦略作りとソーシャルマーケティング~団体の価値を再構築する~」をはじめ、助成金、チラシデザイン、写真を効果的に活用する広報、会議で生かせるファシリテーションやバックオフィス講座など、各分野で活躍されている講師陣を招き、年12回開催しています。
プラッツが開催する最新の各種イベント情報はこちらをご覧ください。
http://www.fuchu-platz.jp/event/index.html
社会も地域も、みんなが嬉しい! 交流・商い・発信の拠点「府中テラス」
大國魂神社の向かい、けやき並木沿いのカフェ「BASE.S CAFE & DINER 府中テラス」。イベントスペースとしても使用でき、市民活動団体はリーズナブルな価格でスペースや機材を借りることができます。これまで、店内ではトークや音楽のイベント・イラスト展など、 屋外ではワークショップやマルシェなどが開かれました。
2022年6月には、市民団体「act634府中」「ひな草の会」講師による『寄せ植え体験』が屋外スペースにて開催。梅雨晴れの一日、初夏の風と土の暖かさを感じながら、市内の花卉農家さんから提供してもらった苗で思い思いの寄せ植えを作りました。
府中テラスが目指しているのは「Social Good HUB(社会が喜ぶ活動の、交流・商い・発信の拠点)」となること。たくさんの人がつながる場であり、みんなのチャレンジを後押しする仕組みがある、そんなカフェです。
BASE.S CAFE & DINER 府中テラス
〒183-0022東京都府中市宮西町2丁目2-12
TEL:042-407-2675
kokoiko22号アンケート&プレゼント
kokoiko22号のご感想、今後取り上げてほしいテーマについてアンケートにお答えください。アンケートに回答いただいた方の中から抽選で5名様に「徳島県産いちごジャム」(提供:BASE.S CAFE & DINER 府中テラス)をプレゼントいたします。
【徳島県産いちごジャム】5名様にプレゼント!
徳島県産いちご「さちのか」を使用した、コクのある甘味と爽やかな香りのいちごジャムです。
応募方法
WEBからのご応募、または官製ハガキに感想をお書き添えのうえ、下記宛先までお送りください。
応募フォーム:https://bit.ly/35CQkr7
〒183-0023
東京都府中市宮町1-100ル・シーニュ5階
府中市市民活動センターkokoiko係
応募締切:2022年10月31日
当選の発表は商品の発送をもって代えさせていただきます。
kokoiko21号にお寄せいただいた「読者の声」を抜粋してご紹介します。
■大学生になって目上の方と関わる機会が増えたけれど、自分はまだ、社会の常識的なこと(メール文や、関わり方)に難しさを覚えていて、もっと関わりたい思いがあるが、どうしても立ち止まってしまう。
だけど、同世代の人が積極的に活動していて刺激を受けた。
■プラッツでインターンをしている若い方と、府中で市民活動をしている団体が実際に繋がって、活動をしていることが見て取れてよかった。プラッツに関わっている人たちには、ターゲットが幅広く当てられていると思う。後は、プラッツ以外にこの情報誌を置くなら、もう少し一般の人が興味を引くような内容を盛り込むとよいのかなと感じた。
団体登録しませんか?
プラッツに市民活動団体登録をすると、団体活動スペースの予約利用や印刷室、各種貸出機材の活用、さらにWebやSNS等での情報発信、各種イベントへの出展など、活動を広げるチャンスがたくさんあります。府中を拠点に、誰もが住みやすい地域や社会のために団体活動を展開している皆さまのご登録、お待ちしています。
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